【19】どれだけ傾けても倒れない椅子
第一章:発明家の遺品
館山市の郊外にある古びた民家。そこは先月亡くなった老発明家・葛西恭一の屋敷だった。渡辺多々梨は、その屋敷の片付けボランティアとして現地に訪れていた。
築60年の木造建築の中は、天井の木材が黒ずみ、畳もすっかり湿気ていた。だが、妙に手入れされた一室があった。
その中央に置かれていたのが、「木製の椅子」だった。
背もたれと脚が太く、赤褐色のニスが丁寧に塗られている。だがどこか、不自然に“重心”が偏っているように見えた。
「……アンティークって感じでもないな。でも、座ってみたいかも」
彼女は軽く腰掛けてみた。
第二章:倒れない椅子のはじまり
不思議な感覚だった。椅子はぐらつくどころか、まるで地面に吸い付いているように安定していた。彼女は試しに重心を左に、次に右に、さらに背後へと傾けてみた。
が――
倒れない。
それどころか、どれだけ身体を斜めにしても、椅子はまったく動じない。まるで磁石で床に吸着されているかのように。
「なんこれ、変な感じ…でもすごい」
だが、椅子から立ち上がろうとした瞬間、彼女の身体は――動かなかった。
第三章:重力の再定義
「……は?」

多々梨は驚いた。腰から上が椅子に吸いつくように固定され、足だけが空回りしている。
「や、ちょっと、ほんとに動けないんだけど?」
焦る彼女の耳元に、わずかな電子音が響いた。椅子の肘掛け部分に埋め込まれていた小さなスピーカーから、老いた男性の声が流れる。
「この椅子は“重力”を操作する実験の最終形である。乗った者の重心を固定し、物理法則の外へと連れていく」
「……誰?」
「君は選ばれた。椅子の重心と君の存在軸が一致した。もう君は、通常空間に属していない」
彼女は無理やり椅子から体を引き離そうとしたが、脚も腕も、どんどん“椅子の一部”のようになっていく感覚があった。
第四章:椅子の中からの声
彼女は絶叫した。
「もぅダメじゃんッ!」
だがその声すら、口の中にこもり、外へは出ていなかった。
やがて、頭の中に他人の思考が流れ込んでくる。
「ここは……“座ってきた者たち”の集合意識体」
「私も20年前にこの椅子に座ったの」
「抜け出すには、誰かに座ってもらうしかない」
多々梨の視界は変わった。目の前に見えていた部屋が、今は真っ暗な空間に。そこに、いくつもの光がふわふわと浮いている。
その光の一つが彼女に語りかける。
「次の“重心一致者”が来るのを待て」
最終章:来訪者
一ヶ月後。
葛西家屋敷の遺品整理に新たなボランティアが訪れた。
「なんだこの古い椅子……でも、座り心地良さそうだな」
男性が軽く腰を下ろした瞬間、空間がきしんだ。
椅子の木目が微かに赤く輝く。内部から聞こえたのは、女性の声。
「……大丈夫っしょ」
それは渡辺多々梨の声だった。
― 完 ―
生成メモ
怖あい話GPT2025を使用して生成、プロンプトは『どれだけ傾けても倒れない椅子』