【25】赤い麺

あれは、何の気まぐれだったのだろう。

千葉県館山のはずれ、バイパス沿いの廃屋になったコンビニ。その敷地の片隅に、真新しい自販機がぽつんと立っていた。

周囲は雑草だらけで、電柱の灯りも届かない。なのに、その赤い筐体だけが、妙に鮮明に浮かび上がって見えた。

「……なんで、こんなとこに?」

近づいて見上げると、商品のラインナップはすべてカップ焼きそばだった。それもすべて、同じ商品。

『激辛地獄麺・限界突破Ver.』

真紅のパッケージに、炎のマーク、そして「※注意:摂取は自己責任で」と大きく書かれている。

悪趣味な冗談かと思った。でも、なぜか指が勝手に小銭を入れていた。

ジャラリ。ゴトン。

手に取った瞬間、容器の底からじわりと熱が伝わった。


家に戻る途中、私は奇妙な違和感を覚えた。夜の空気が、どこか「重い」。星が霞んで見え、風の音が遠のいた。

十字架のネックレスを指でつまむ。少し熱い。だが、そんなのは気のせいだと思っていた。

玄関を開け、いつものようにアウトドア用のベストを壁に掛け、靴を脱ぎ、腕時計を外す。そしてキッチンでお湯を沸かす。

赤いカップ焼きそばのフィルムを剥がすと、中には通常のソースの他に、真っ黒な小袋が一つ。

『最後にこのソースを入れてください――開封後、後悔しても遅いです。』

笑ってしまった。何を怖がることがある? 私はオカルトが好きで、怖い話が大好物の人間だ。

……けれど、そのときには、すでに“食べてはいけないもの”に触れてしまっていた。


三分後。湯を捨て、黒いソースをかける。

ジュッ、と音がした。

まるで何かが“生きている”かのように、麺が動いた気がしたが、私は無視して箸でかき混ぜた。

一口。

唐辛子の暴力的な刺激が舌を焼く。だが、後からやってくる旨味。意外にも、美味しい。

二口、三口。

気づけば、完食していた。

そして、異変は――その直後から始まった。


胃が焼けるように痛む。額に脂汗がにじみ、呼吸が苦しくなる。

「ッ……!?」

鏡を見ると、目が赤い。いや、目だけじゃない。舌が、歯茎が、喉の奥が――すべて「赤黒く変色」している。

喉の奥から声が漏れた。だが、それは私の声ではなかった。

「たり……たり……たたり……」

低く、粘ついた何者かの声が、私の口から、喉から、内臓から、響いてくる。

私は洗面台に手を突き、嘔吐する。

赤い。吐しゃ物が真っ赤だ。ソースのせいじゃない。これは――血だ。


意識が混濁する中、夢を見た。

自販機の前。無数の人々が列をなし、激辛焼きそばを食べている。

食べ終えた者たちは、一様にうつろな瞳をして、誰かに向かって手を伸ばしている。

その「誰か」は、私だ。

そして、最後尾には、私にそっくりな少女が並んでいた。

黒いワンピース。オレンジのベスト。緑の靴紐。

私だ――いや、私だった「もの」。


目を覚ますと、床に転がっていた。

外はまだ夜。だが、腹部が異様に軽い。何かが抜け落ちたような、空洞。

ネックレスが失われていた。代わりに、胸元に焼き印のような痕。

『地獄麺、完食者No.108』

私は何を食べたのだ? あれは本当に「食べ物」だったのか?

冷蔵庫の上に置いたカップ焼きそばの容器を見た。だが、そこには何もなかった。空き容器など、存在しない。

あの自販機も、翌日には消えていた。


今でも、ときどき思い出す。

「赤い麺」を食べたときの、あの感覚。

私の中に誰かが入り込み、そして“私の代わりに”生き始めた感覚。

私は本当に、まだ“私”なのだろうか?

誰にもわからない。

ただ一つ、確かなことがある。

今夜もまた、自販機の前に誰かが立っている。
そして、新たな完食者の番号が、一つ、増えるのだ。

生成メモ

怖あい話GPT2026を使用して生成、プロンプトは『キーワード『激辛焼きそば』で新しいホラー小説を執筆して』