台風の夜の遺言―延期された花火大会

ある年の夏、僕らの町で催される予定だった花火大会が台風により延期となった。それは、台風が突如として強まり、緊急に避難が必要になったからだ。町の人々は安全を確保するため、家々に戻るしかなかった。

花火大会の主催者である町内会の会長は、僕の親友の父親で、彼の家に泊まりに行くことになっていた。その日、彼の家へ向かう途中、強風が激しく吹き荒れ、土砂降りの雨が横殴りになって僕たちを襲った。時折、雷鳴が轟き、不吉な予感が頭をよぎった。

避難を急ぐ中、町のはずれにある古びたコロッケ屋に立ち寄ることになった。その店は地元で有名な老舗で、特製のコロッケが美味しいと評判だった。ただ、何となく、その古い店には何か特別なものがあるような、そんな噂も囁かれていた。

店の中は暗く、外の暴風雨の音がこだまする中、老店主が微笑みながら僕たちを迎えた。焼きたてのコロッケを頬張りながら、外の台風を窓越しに眺めていると、突然、拍手の音が聞こえてきた。

はっきりとした拍手の音だった。それは、どこかから遠く、暗闇の中から聞こえているようだった。拍手の音は次第に大きくなり、僕たちは皆、その音の方向へと目を向けた。そこには、延期された花火大会の会場の方角にあたる空が見えた。

拍手の音が消えると、突然、会場の方向から一軒の古い家が燃えているのが見えた。焦りと恐怖でいっぱいになり、急いでその場を後にした。

後で分かったことだが、その家は廃屋で、地元の伝説に登場する亡霊が住むとされていた場所だった。そして、拍手の音の正体は、亡霊が延期された花火大会を祝うためだったと囁かれている。

台風が過ぎ去った後、その廃屋からは何も見つからなかった。ただ、地元の人々の間では、毎年花火大会が延期になるたび、拍手の音が聞こえ、その夜には何か不可解なことが起きると言われている。

その日以来、僕たちは花火大会が延期される度に、不吉な予感と共に、あの拍手の音を思い出すのだった。そして、あの古びたコロッケ屋には、二度と足を踏み入れることはなかった。

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Posted by tomoaky