【15】キツネのダンクシュート
千葉県南部、館山市の外れにある廃校。そこはもう誰も近寄らない場所だった。中学校だったというその建物は、今や苔むしたコンクリートとひび割れたガラス、吹き抜ける風が木製の床を軋ませるだけの空虚な箱と化していた。
渡辺多々梨は、その廃校に足を踏み入れていた。
「大丈夫っしょ」と口にしてみるが、心はすでに不安でいっぱいだった。ネット掲示板で見つけた噂——“夜の体育館で、キツネがダンクシュートを決める”という摩訶不思議な都市伝説——に、なぜか妙に惹かれてしまったのだ。
体育館の中へ
入口は錆びついたチェーンで封鎖されていたが、多々梨は工具を使って静かにそれを外した。扉の向こう、黒く広がる空間には、かつての歓声も音楽ももうなかった。懐中電灯の明かりを頼りに歩き出すと、風で舞う埃とバスケットボールの残骸が目に入る。
床には無数の爪痕のような擦り跡があった。人間の靴ではない、もっと小さく鋭い、獣のような跡。
「ただの動物…だよね?」とまた自分を安心させるように呟く。
午前2時、跳ねる音
多々梨はベンチの影に身を潜め、体育館中央を見つめていた。午前2時、噂の時間が近づく。
その時だった。
バンッ、バンッ、バンッ…。
ボールをつくような音が遠くから聞こえてくる。誰かが、いや“何か”がバスケットボールをついている。やがて、暗闇の中から一体の影が姿を現した。
細身で、四肢が異様に長く、顔はキツネのような尖った形をしていた。しかしその瞳は光を宿しておらず、黒く空洞のように深い。獣とも人ともつかない、どこか異質な存在だった。
その“キツネ”は軽やかにボールを操り、助走をつけたかと思うと、一気にゴールへ跳び上がった。

ダンクシュート。
その瞬間、ゴールの支柱が**ギィィィ…**と不気味な音を立てて揺れ、天井の古びた照明が一斉に点滅した。多々梨はその光の中で、キツネの顔が次第に“誰か”に変わっていくのを見た。血だらけの顔、口元から何かを食いちぎったような赤い滴、そしてそれが“こちら”を見つめる。
逃走
「大丈夫っしょ……!」
そう叫ぶように言って立ち上がった多々梨は、ベンチを蹴って転がしながら一目散に体育館を飛び出した。後ろで“バンッ”とボールが地面に落ちる音が一度、二度、三度と響く。
走っても、音はついてくる。体育館の扉まであと少しというところで、天井から照明器具が落下し、危うく頭をかすめた。
ようやく扉を開け外に出た瞬間、音は消えた。
闇の中、振り返ると体育館の扉がゆっくりと、誰の手もないのに閉まっていった。
数日後
地元のニュースで、あの廃校が取り壊されることになったと報じられていた。しかし解体業者の一人が不自然に首を折った状態で発見され、作業は中止に。
目撃者の話によれば、その死体のそばには古びたバスケットボールが転がっていたという。
渡辺多々梨は、もう二度と“噂”に首を突っ込むまいと誓った——いや、少なくともその場所だけは絶対に近づかないと心に決めていた。
― 完 ―
生成メモ
怖あい話GPT2025を使用して生成、プロンプトは『キツネのダンクシュート』